和乃果、和乃顔。vol.4 | 藤田 武仁

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2022.05.20

「和乃果」のロールケーキに適したいちご。

 和乃果のロールケーキに使用いただいている「かんなひめ」は、甘さと食感が際立つ品種。いちご園藤田で、2022年より取り扱いをはじめた新しいいちごです。

いちご栽培は親父の代にはじまり、自分で2代目になります。甲府の南側の地域は昔からいちご農家が多く、観光園として30年以上人々をお迎えしてきているそう。かつては20軒ほどのいちご農園が軒を連ねていたといいますが、高齢化が進み、現在は10軒になりました。私たちの場合、いちご栽培をはじめるより以前は、ハウスや路地でもろこしを主に栽培していました。親父の代でもろこし農家からいちご農家となり、早20年ほどが経ちます。

いちご農家としてはじめに育てたのは、いちご狩り向きの「あきひめ」だったそうです。「あきひめ」は粒が大きく酸味も少ないため、幅広い世代に愛される品種です。それから、「紅ほっぺ」「とちおとめ」と少しずつ種類を増やし、現在は18種類のいちごを楽しんでいただけます。品種の選定は種苗会社の情報をもとに、「スーパーではあまりお目にかかれない珍しいいちごを」と考えて選びます。2022年は「スターナイト」、「東京おひさまベリー」、そして和乃果のロールケーキに使用いただいている「かんなひめ」の3種を新たに育てはじめました。

「かんなひめ」の特徴は、とにかく甘みが強い。味がしっかりしていることに加え、実に程よいハリと硬さがあるため食感も楽しむことができます。実際に口にしてすぐ「和乃果のロールケーキに合うだろう」と、清月の中村シェフにお話しました。

つくり手の視点からも「実がしっかりしている」のは、ポイントだったそうです。巻きやすく、食べる際にカットしても美しいカタチのまま。さらに「かんなひめ」は、表面だけでなく中も赤い。真白な生地とクリームでつくるロールと、鮮やかな赤いいちごの掛け合わせが生む“色彩”も楽しんでいただきたいですね。

養液栽培、地下水のろ過、ミツバチ。うちのこだわり。

 私たちが採用しているのは「高設養液栽培」という栽培手法です。土の代わりにココナッツの実を砕いたヤシガラを土壌とし、そこに液肥を浸透させていちごを育てます。ヤシガラはスリランカから輸入し、液肥は季節やいちごの成長速度に合わせてコンピューターで管理。いちごが常に適量の肥料を吸収できる環境を整え、シーズンオフとなる5月末までいちごの品質を保ちます。

中でも“うちならではのこだわり”というのが、肥料を混ぜる前の水です。周辺の農園と同様に地下水を用いていますが、私たちは汲みあげた地下水を必ず一度「ろ過」します。というのも、この辺りの地下水は鉄分と硫黄分を多く含んでいるから。地下水が染みたコンクリートは黄褐色に変色し、成分の強さはすぐに温泉が湧いてしまうほどと言われます。鉄分も硫黄分も決して体に悪いものではありませんが、いちごの美味しさには不要。いちご本来の美味しさを引き立てるため、私たちは必ず地下水を「ろ過」し、ピュアな水で育てます。この「ろ過」の行程を栽培に取り入れている農家は全国的にも多くはないと思います。

加えて、ミツバチを2種類使っている農家も少ないかもしれません。私たちが受粉のために飛ばすのは、セイヨウミツバチとクロマルハナバチ。聞きなれないクロマルハナバチというハチですが、こちらも日本に生息する在来種。明野町(山梨県)で採取し、オランダで増殖させた後に花粉媒介昆虫として日本に戻します。このクロマルハナバチはよく働く。ミツバチが気圧に弱く、最低気温14℃以上の条件下にないと活動できないのに対し、クロマルハナバチは最低気温7℃から飛び出していける。さらに、気圧への耐性もあるため、雨の日も曇りの日も受粉活動をしてくれるのです。ミツバチを2種類用いることによって、受粉できる花が増え、収穫量を上げることに成功しています。

雪害によるビニールハウス倒壊から。

 いちご園を親父から引き継いでまもなく10年。私のいちごを初めて売りに出せるその初年度というのが、山梨県が記録的な豪雪に見舞われた年でした。

たくさんのいちごが実をつけ、「まさに今から」というタイミング。しかし、降り続いた雪の重さによって屋根が落ちたビニールハウスは、観光農園として人を招くにはあまりに不適切な状態でした。その年はなんとか3棟のハウスだけで営業しましたが、シーズン終了とともに全て潰して更地にしました。そうして急いで建て直さなければ、次の年のいちごに間に合わない。「何を残して、何を潰す」という選択をしている余地はありませんでした。一旦ゼロに、本当にまっさらにしてやり直しを試みました。

野菜であるいちごは、やはり手がかかります。果物であれば農閑期もありますが、いちごはなかなかそうはいかない。私たちの場合、5月末日まで営業したら、その翌日すぐに次の1年へ向けての準備を始めます。

シーズン終了の翌日、私たちはまず植わっているいちごを全て抜きます。そして、2週間ほどかけて土の中を消毒。7月に入ったら次の年に向けて苗を植えはじめ、10日ほどで完了させます。通常、いちごの苗植えは9月20日前後と言われますので、私たちは随分早い。親株から伸びた第一子株(太郎)から植え、ハウスでそのまま育苗していきます。10月頃になったら、要らない葉を落とし、不要なツル(ランナー)を切る。全部で2万株ほどの苗の手入れを日々続け、12月にやっと収穫期を迎えます。

近年、太陽の照度が変わった影響か、いちごが実を付ける時期の予測が難しくなりました。けれど、楽しみに待ってくださるお客様がいます。私たちはあらゆる環境の変化にも対応していかなければいけないと感じています。

1年、そしてまた1年。

 今年から減農薬栽培にもチャレンジをはじめました。

いちごというのは無農薬での栽培がどうしても難しい作物です。そんな中で新たに取り入れたのは、いちごの天敵となる虫を食べる虫を撒いて、本来なら農薬で駆除しなければいけなかった病害虫の駆除に使うこと。定着はこれからですが、一定の収穫量を保つことは実現できています。

訪れるお客様から自分が育てたいちごの味の感想を聞くことができるほか、こうして「和乃果」のように商品に生かしていただくことができるのも嬉しい。私たちは常により良い方法を考え、美味しくて安心・安全ないちごをつくることに集中していくことが役割だと思っています。それは、1年、1年の積み重ね。全く別の業種から就農して10年。月日が経てど新たな課題や挑戦がいつも目の前にあり、常に次を考えていかなければいけない仕事というのはとても面白いですね。

山梨に暮らしている方はもちろん、観光で山梨を訪れる方が手にとってくださることの多い「和乃果」のお菓子は、自信を持って山梨を伝えることのできる存在になると思う。そして、「和乃果」のロールケーキを通して、山梨にも美味しいイチゴがあることを知ってもらえたら私たちも嬉しく思います。

いちご園藤田 園主 藤田 武仁

いちご園藤田2代目。建設業に携わったのち、2013年に農園を引き継ぎ園主となる。先代の栽培方法を継承しながら、新品種の取り扱いや減農薬栽培など新たな取り組みも展開。ハウスでの直売と「風土記の丘農産物直売所」でのみ購入が可能。贈答用の承りもあり

撮影:武部 努龍 文章:小栗 詩織 撮影協力:いちご園藤田