和乃果、和乃顔。vol.5 | 塩野 真

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2022.08.03

就農3年、独自に研究を重ねる。

小さな頃からものづくりが大好きだったのですが、学生時代にレストランでアルバイトをしたことが飲食の世界に惹かれたきっかけ。ホールスタッフとしてお客様にサービスを提供していると、お客様が「おいしい」と顔をほころばせている様子が目に飛び込んできます。僕は、そんなふうに人が喜んでくれることをとても嬉しく思いました。レストランの学生アルバイトとして、ホール、そして厨房を経験したのち、卒業後は割烹料理屋に就職しました。

割烹料理屋で料理人として調理に携わっているうちに、気にかかり始めたのが材料のこと。特に僕は野菜が好きで、野菜のことをもっと勉強したいと思うようになりました。そこで八百屋に転職し、野菜のプロになるべく学びました。

そうして野菜の勉強をしているうちに、今度は農作物をつくってみたいと思うようになったんです。同じ職場の仲間たちに胸の内を伝えていると、とある先輩が「野菜もいいけれど、山梨といったらフルーツだろう」と。この一言が、僕の背中を押し、果樹栽培の世界へ飛び込ませてくれたと思っています。僕は2019年に農業をはじめた新規就農者。2020年にシオノファームを設立しました。

「畑をやりたい」と願っても、畑は簡単に借りられるものではありません。そんな時に本当に偶然、畑を手放そうとしている方がいらっしゃって。すでに木が植わっている成園の状態で畑を借りられることになりました。

さまざまなめぐり合わせがあってこその就農。しかし、最初の1年は何も分かりません(苦笑)。ただただ、時間が過ぎていき、焦るばかりの毎日でした。桃の成長を追いかけながら生育のサイクルをつかむことに注力した1年でした。

2年目の年は、前年の経験からやるべきことが分かるようになりました。季節と実の成長に合わせ、順を追って作業を進めました。足りない知識は山梨県が開催する無料講習に参加したり、周囲の農家の方に聞いたり、インターネットで調べたり。ひたすら調べて、試す。結果、収穫量は前年の何倍にもなりました。

消費期限の短さが、和乃果のお菓子の面白さ。

桃は日持ちしない果物。管理が非常に難しく、保存は7℃〜10℃が最適です。普通の冷蔵庫に入れておくと水分が抜け、3日もすれば味が落ちてしまうことも少なくありません。

和乃果のお菓子の面白さは、消費期限の短さ。果実と同じように、“生”のお菓子であるという点だと思っています。特に、僕の桃を使用していただくロールケーキは、素材そのままが生きるお菓子。2日という非常に短い消費期限は、「果実がもっともおいしいタイミングで召しあがっていただきたい」というブランドの想いが込められているものだと解釈しています。

和乃果のロールケーキは、週末限定本店のみで販売されている商品です。木曜に収穫された桃が、金曜にロールケーキとなり、土曜日の朝から本店に並びます。

つまり僕は、週末に向けてもっともおいしくなる桃を用意しなければいけません。収穫のタイミングは品種ごとに異なり、6月下旬の「日川白鳳」から「白鳳」、「なつっこ」、「浅間白桃」、「一宮水密」と順に収穫します。品種ごとに食べごろを見極めて、木から収穫する。そのタイミングをはかるのが、何より難しいですね。

昨年、「夢桃香」を2本植えました。「夢桃香」は山梨県が品種改良を行い、新たに誕生させた注目の品種。程よい硬さの「夢桃香」は、2年以内 に和乃果のロールケーキになる予定です。生のままの果実を用いる和乃果のロールケーキにとても適した桃ですので、楽しみにしていただきたいですね。

 

土地のポテンシャルを活かし、桃の生育に寄り添う。

山梨県笛吹市一宮町。日本一の桃の里として知られるこの地は、古くから桃の栽培が盛んな地域です。僕はここで畑をはじめて以来、色々な土地の桃を食べて歩いているのですが、同じ品種でも畑によって味が見事に異なります。そして、一宮の桃はおいしい。天候、土壌、この土地には、ポテンシャルがあると感じています。

僕の畑では、あれこれ手を加えた2年目より、ほとんど何もしなかった1年目の年の桃のほうが圧倒的に味わい豊かな桃が収穫できました。おそらく、極力余計なことをしない方が、桃本来の香りや甘さ、うまみをしっかりと引き出してあげられるのだろうと考えています。

だから僕は、これから先必要最低限のことだけをして桃を育てていこうと思う。人と同じように、桃の木にも育っていくためにどうしても必要な栄養素や手入れはあります。この土地では、生育の手助けさえしてあげれば、桃は桃本来の味のまま、ちゃんとおいしくなる。生育を手助けする。ただ、それだけでこの地の桃は抜群においしいということなのでしょう。そのポテンシャルがこの土地にあるのだと思います。

本当に、おいしい桃。

桃農家となって、何より嬉しかったのは「久しぶりにこんなにおいしい桃を食べました」とお客様が言葉をくださったこと。同じ桃でも、畑や栽培の仕方によって、味わいは変わるのです。

桃は通常、13度以上の糖度を保つことができれば上々といわれますが、平均糖度18度ほどになる畑もあるそう。しかしそういった桃は、甘いには甘いけれど、おいしい桃かどうかといわれてみると、そうは言い切れないと思っています。糖度が高い桃は甘いけれど、それ以外の特徴が乏しい。それではつまらないと僕は感じる。“甘さ”の正体は、土に混ぜている肥料の味だという人もいます。

僕が目指す桃の味は、そんなふうに昔食べた懐かしい味わいの桃であり、特有の香りが残る“野性味”のある桃。素材そのものの味と香りを楽しんでいただける桃です。“野性味”を実感していただくためにも収穫の時期が大切。なるべく木に実をつけた自然な状態で保存し、「旬」をお届けしたいと思います。

就農して3年、桃作りに満足したことは一瞬たりともありません。黄色い桃も育ててみたいし、12月に食べられる「クリスマスピーチ」という品種も気になっています。収穫のタイミングを少しずつずらし、品種を増やしていくことを計画しています。また、失敗続きで作業も追いつかないこともある一方で、閑散期には畑を離れて和乃果の店頭で販売のお手伝いをしていることもあります。これから先の近い将来、果樹全般をつくって一年中畑にいられるようになれたら幸せですね。

僕が肥料を用いる時は、なるべく有機肥料を使用し、桃の味わいを損なったりしないようにすることにも注意しています。糖度の高い甘い桃は、つくろうと思えばいくらでもつくることができる。肥料も何も用いることがなかった就農1年目というのは、確かに少し木を弱らせてしまいました。けれど、甘みがあって、香りがあって、おいしい桃を収穫できた。昔食べていた桃の味を思い出させてくれるような桃に仕上がりました。

シオノファーム代表 塩野真

2019年に農業をはじめ、2020年シオノファーム設立。山梨県笛吹市一宮町に畑を借り、数種類の桃を栽培している。桃以外にもぶどう栽培にも着手。冬期は和乃果店頭で商品の案内をしているほか、溶岩焼き芋販売も。シオノファームの作物の下記インスタグラムよりお問い合せくださいませ。

撮影:武部 努龍 文章:小栗 詩織 撮影協力:シオノファーム