和乃果、和乃顔。vol.8 | 職人衆

2023.01.06

 Esquisse 甲斐晋介氏の設計をもとに進められた和乃果牧丘本店の店舗工事には、地元・山梨の職人が集結。店舗まわりの植栽のバランスを考えることから、商品を並べるショーケース、建具やその塗装、照明の配線といった細部までそれぞれ腕利きの職人が招集。工事期間中、あまり互いに顔をあわせることはなかったという職人たちが集まり、それぞれの仕事を振り返る。

まるで、手を加えていないかのようにみせる技。

  • 朝岡
    私が担当したのは、ドアや建具、裏の塀(へい)やトイレの外装の塗装。この建物になじむよう、新しく見せないようにこだわって色をつくりました。できるだけ、“古っぽく”、味が出るように。色は何色も混ぜて調合しています。

    特に建具などは使っているうちにどうしても擦れなどで色がはげてしまうことがあります。ですから、メンテナンスも不可欠。時々塗り直しに来ています。
  • 井上
    私は設備の部分を担当。トイレを含む水回りの工事が中心でした。和乃果は家主がいて、現在も住まわれている場所をお借りした特殊な店舗。浄化槽は既存のものに接続する必要がありました。注意したのは、勾配を十分にとること。しっかりと水の流れを確認して、お客様に不便がないようにと気を配りました。
  • 小菅
    僕は大工。和乃果の工事においては、裏の板塀や事務所にしているプレハブの外装を整える部分を担いました。板は趣のある焼杉を採用。張り方は設計の指示通りの「大和張り(やまとばり)」です。工事において、チーム3人で担当し、設計の指示をきちんと理解し、美しく仕上げることを意識しました。
  • 桑原
    現場に一番長く居たのが、植栽や駐車場周りを担当した自分のようです。工事期間中ほとんどいました。植栽はもともと植わっていたものを、店舗のオープンに向けてより美しく見えるように手入れをしました。大変だったのが駐車場。入り口を広くするために、巨石の石積みに手を加えています。なるべく自然に見えるように、元からこうであったかのように、気を配りました。
  • 雨宮
    建物に傷をつけてはいけないという制約がありましたので、配線をまとめるのが大変でした。何度もやり直し、工夫を重ね、黒い紐でくくる手法を選択し、納得のいく仕上がりにできました。よく見ると、天井の梁に黒い紐でくくってあるんですよ。見せないように気をつけながら、本当に何度もやり直しました。

それぞれが、それぞれにこだわりを持って。

  • 飯島
    僕はメインの建具のガラスと、ショーケースの面版のガラスを入れさせていただきました。ガラスは中から外が綺麗に見える透明なガラス。表面に飛散防止フィルムを貼りましたので、よく見ると少し緑がかったものになっています。戸越の景色を楽しんでもらいたいと丁寧に選定しました。あとは寸法。建具屋さんが仕上げてくださった戸の寸法をしっかりと計測し、ガラスをはめ込みました。
  • 萩原
    自分は看板屋。建物の雰囲気に馴染む看板をということで、スチールの板にコールテン鋼という酸をかけて、錆びの加工をしました。コールテン鋼というのは、錆びてもボロボロにならない加工である点も、強度を求められる看板に適していると考えました。聞くところによると、和乃果を訪れるたくさんの方が看板の写真を撮ってくださっているそうで、とても嬉しいです。
  • 森下
    商品を並べるショーケースはフルオーダー。この建物にあっても違和感がないデザインと必要な機能を考え抜いた一点ものです。例えば、機能面でいうと半分冷蔵、半分はチョコレート用という構成。デザインは黒を基調とし、高級感のある雰囲気にまとめています。
  • 河村
    自分が担当したのは、建具やカウンター内の見えない部分の家具。いずれも和乃果のために設計の方がデザインして自分が仕上げた造作です。使用したのはタモ材。もっとも苦労したのは、面を取る作業です。角のところの丸み。これがとても難しかったですね。和乃果の建物は、左官屋さんをはじめ、皆の仕事が素晴らしいと思います。

築200年の武家屋敷に手を加える緊張感。

  • 今井
    HACK JAPAN ホールディングス・保坂さんとは、これまでも何度か現場をご一緒させていただきましたが、今回は特に異質なご相談。家主のいる“お住まい”の一部をお借りして店舗にするということに加え、そのお住まいは築200年の武家屋敷。家主様の家に対する深い思い入れをお伺いすると、現場を任せていただけることに有り難さと緊張感を感じました。

     工事は丁寧に、確実に、一つも判断を間違うことなく進めるために、それぞれ最も信頼できる職人に声をかけ、得意な持ち場で力を発揮してもらうスタイルとしました。

     建物は、間違いなく唯一無二ですから「ごめんなさい」があってはならない。集結した職人たちは、各所を任せられる一番手たちです。僕らの仕事は決して派手ではなく、まるで目には映らないことさえも多い。しかし、どれも卓越した技術と経験のなせる“職人の仕事”。歴史ある武家屋敷に寄り添い、建築デザイナーの意匠を具現化する職人の技を、現地で感じ取っていただけたら嬉しいです。

     和乃果に期待することは、山梨を盛り上げてもらうこと。果物も作り手も山梨にこだわり、山梨の魅力を発信しようとしているのですから。そんな素晴らしいプロジェクトに関わっていられること、とても誇りに思います。

株式会社アイビーソウケン

山梨県甲府市に本社を置く建築会社。地元の職人衆からの信頼が厚く、建築金物、住宅・オフィス・マンション改修工事から商業店舗改修、メンテナンスまで、建築に関する幅広い事業を展開。築200年の武家屋敷を改修した「和乃果牧丘本店」のほか、2022年11月に東京駅にオープンした「和乃果 東京ギフトパレット店」の施工も請け負う

撮影:武部 努龍 文章:小栗 詩織 撮影:和乃果 牧丘本店