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商品開発アドバイザーの仕事。
和乃果のプロジェクトには2023年から参画。知人の紹介が縁で、商品開発アドバイザーとしてご一緒させていただくようになりました。仕事の主軸は、『和乃果 東京駅店(2025年3月閉店)』における商品のメニュー開発。季節ごとの菓子類やドリンクメニューなど、いくつもの商品の誕生に携わっていました。
私が商品開発の際にいつも考えているのは、“誰が・どこで・何を”というポイントです。商品を仕上げるのが自分ではないため、その店舗のスタッフがどこまでできるかという能力を見極めるのは重要なポイント。加えて、どこで販売される商品か、商品を通じて伝えたいメッセージは何か、という3つの点を大事にしています。
例えば、海外からの旅行客も多い『和乃果 東京駅店』でいえば、山梨のフルーツを使った菓子であることを分かりやすく表現することは必須。加えて、歩いて通り過ぎる一瞬の中でも目に留まり、手に取ってもらえるよう、ポップの作り方をはじめとするアプローチ導線にもこだわっていました。
チョコレートを思考する。
和乃果の看板商品の一つにチョコレート商品がありますが、既存のチョコレート商品のアップデート、そしてチョコレートの祭典に向けた新商品開発も気を抜けない仕事です。
というのも、世の中には数えきれないほどの種類のチョコレートがあります。その中から、和乃果の商品イメージに合ったチョコレートを見つけ出すため、ひたすら味見を繰り返し、過去に食したものから味の記憶を遡り……。それでも十分ではなかったので、まもなくお目見えとなる新商品には数種のチョコレートをブレンドするという手法を選択。和乃果専用のオリジナルチョコレートが誕生しました。
新商品のチョコレート菓子は、山梨のドライフルーツにチョコレートを掛け合わせた“山梨らしさ”溢れる商品。ドライフルーツとチョコレートという、ありそうでなかった組み合わせだからこそ、多くの人に受け入れてもらえる可能性を秘めていると思います。
職人としての矜持、仕事の流儀。
私が食の仕事を志したきっかけは、お好み焼き屋のアルバイトに原点があります。鉄板を挟んでお客様と会話しながらものをつくるというのが楽しかったんですよね。それからたまたま見ていた雑誌に「サダハル・アオキ」の特集があり、キラキラしたものを感じてしまった。それを原動力に、『Decadence du Chocolat』の扉を叩いたのが始まりでした。
今思えば、お菓子作りはおろか、調理経験もほとんどないままよく飛び込んだと思います。チョコレート専門店、パティスリー、カフェ、レストランといくつもの縁に恵まれ、無我夢中で学び続けました。中には、お店の立ち上げから関わらせていただく機会もあり、数字管理や効率性という、商品開発において重要な要素に触れることもできました。
職人として譲れない味のクオリティのラインと、飲食店として安定した商品をお客様に提供し続けられるようにするということ。この2つのバランスをとりながら、働いている人たちの未来がみえる仕組みづくりに寄与し続けることができたらいいな、と考えています。
身体が自然に受け入れる味。
自分の仕事の仕方の特徴に、商品とお客様の関係性を考えるという点があります。例えば、チョコレートの祭典用に開発している新商品は、山梨らしさをしっかりと届けることが和乃果の使命。つまり、生産者の姿があり、届ける人があり、加工する人たちがいて、最終的にお客様に届くものとなる。その商品は、尖った姿であるべきではないと思いました。
狙ったのは、「嫌いな人がいない」味。人に贈る場合もあるだろうし、自分で食べることもあるだろう。そうであれば、一部の玄人だけに喜んでもらえるものではなくて、多くの人から受け入れてもらえるものであることで、商品とお客様との関係性の中に良い感情が生まれるのではないかと思いました。
これは、飲食に携わる自分の矜持とも重なる点です。私は「わぁ、おいしい」という、スムースに身体が受け入れるようなおいしさを追求したい。なぜならそれは、ひとときの感動で仕舞いにはならず、体が自然に受け入れる、どこか忘れられない味わいという形で長く心に残り続ける味になると思うから。
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綶(まとう) 貴司
新潟県出身。高校卒業後、洋菓子の魅力に惹かれて「代官山デカダンスデゥショコラ」に入社し、お菓子の基本とショコラの技術を学ぶ。その後も都内でパティスリーの立ち上げやスーシェフなどを務めたほか、2015年には東京・白金imakaraにてシェフパティシエに就任。同系列店のデザートの監修や商品開発を担う、製菓部門の統括として務める。2020年に独立し、スイーツ専門のECサイト「calme」をオープン。その傍、商品開発や卸販売などで飲食店をサポートする活動を続けている。
撮影:武部 努龍 文章:小栗 詩織 撮影:和乃果 牧丘本店