和乃果、和乃顔。vol.1 | 保坂 東吾

2021.04.27

山梨のそして日本の魅力を「和乃果」に込めて。

 和乃果というブランドを立ち上げたキッカケは、清月の社長をされている野田清紀さんとの出会いにあります。今から 11 年ほど前、私が 25 歳の頃でした。

 当時、野田さんは南アルプス市商工会の若手経営者を育てる「夢現塾」の塾長に就任され、その1期生となった私は卒業までの3年間、野田さんのもとで学びました。そして「夢現塾」を卒業してからも、同期のメンバーで「南アルプス経営研究会」という勉強会をつくり、野田さんとは定期的に交流を重ねてきました。そんな数年前のある日のこと、食事の席で野田さんが「もう一度東京で事業をしたい」と、ぽつりとおっしゃたんです。もともと清月さんは東京でお店を構えていた時期があったと聞いていました。そこで私は「清月のロールケーキはすごくおいしいので、やるならロールケーキで勝負しませんか」と持ちかけました。すると、「お前だったらまかせてもいいよ」という返事をいただき、清月さんとHACK JAPAN による新たなお菓子づくりのプロジェクトがスタートする事になったんです。

 新しく事業を始めるにあたって、まずは清月さんと HACK JAPAN それぞれのいいところを掘り下げようという事になりました。清月さんには今年で創業90 周年という歴史があります。昭和6年に横浜伊勢佐木町で開業し、昭和 18 年には東京日本橋にお店を構えていらっしゃいました。当時から、原点は和菓子屋さんです。そして現在も、もちろん和菓子にも力を入れていらっしゃいます。腕のいい菓子職人さんもいます。でも普段、私たち、特に若い人たちは日々の生活の中でそう和菓子を食べなくなってきていますよね。ならばHACK JAPANの企画力やリブランドのノウハウを活かして、和菓子のカタチと見せ方を変えて、地元山梨の方はもちろん、より多くの人にも喜んでもらえる新しい商品・新しい価値を世に送り出そうという事になったんです。

「和乃果」を通して、山梨県の将来の可能性を感じてもらいたい。

 私は、子供の頃から清月というブランドが大好きです。物心つく前から食べていました。「夢現塾」を通して野田さんという人物が好きになりました。そして、いつかは地元南アルプスの地域に所属している経営者の会社同士の能力や資産をかけ合わせ、未来につながる新しい価値にして世に出していきたいとずっと心に抱いていました。

 さらに、この新事業で菓子に着目したところにも大きな理由があります。それは、菓子事業は6次産業だということ。すべての産業に触れることができるので異業種間をコラボレーションするモデルとしてベストな選択だと思っています。

 HACK JAPAN は、日本に埋もれている技術や良いものを、まったく違う視点で新しい価値にして世に出していく会社です。業種を超えて、常に挑戦をしていく会社です。これは私の性格でもあるんですが、おもしろいことを見つけてずっとチャレンジしていきたい。誰かと「共感」しあい、力を合わせて新しい価値を「共創」していきたい。「和乃果」の「和」という文字には、もちろん和菓子の「和」でもありますが、人と人や企業と企業が共感し共創していけるつながりの「和」という想いを込めています。

 さらにもうひとつは、将来的に世界展開するブランドに「和乃果」を育て上げていきたいと考えていますが、その時、世界に誇れる和の国・日本の「和」でもあるのです。そしてもちろん「和乃果」というブランドは、山梨県産の果物を使う事を大前提にしています。ですから「和乃果」の果は、山梨県の果実の「果」。日本の果実という意味も込めています。さらに果実には、芽吹きの時季、花の時季、実りの時季と、色で、香りで、味で楽しめるまさに日本の四季そのものだと思うんです。そんな、世界に誇れる優しく美しい四季を「和乃果」のブランドを通して表現していければと考えています。

山梨のいいものを、もっとよく。「和乃果」が大切にしていること。

 「和乃果」は、果物あってのブランドです。山梨県の農家さんはとてもいい果物をたくさん作ってくださっています。でも、現状はどうでしょう。農家さんはもっとリスペクトされるべきだし、もっと稼いでいい。もうけるべきだと思うんです。ですから、新しいカタチで価値を付加して1次産業を活性化できれば、最終的に世に出せる価値を飛躍させる事がでるのではないでしょうか。つまり、いいものをもっとよくできる。

 たとえば、果実にひと手間加えれば、消費のピークを長くする事ができます。旬のときはロールケーキでそのまま使い、フリーズドライに仕立てれば数ヵ月はお菓子に使う事ができるし、ピューレにすれば食卓でも楽しんでもらえる。形や大きさの大小にかかわらず、収穫した果実は余す事なくその魅力を味わってもらえるようになる。「和乃果」がまず大事にしたいのは、農家さんであり、山梨県の土であり、自然の恵みそのものです。

 そしてもうひとつ、大切にしているのは山梨県の人です。今回のプロジェクトでもいろんな人が携わっていますが、清月の野田社長を含め、商品開発からご一緒の清月工場長の中村秀幸シェフ、パッケージにろうけつ染めを提供してくださる古屋絵菜さん、パッケージ制作にご尽力くださった橋本夫婦、さまざまな果物を提供してくださる指定の農家の方々。ものをつくるのは人ですよね、人と人の気持ちが共感し、繋がっていって、魅力あるおいしさが創られていく。「和乃果」は、地元の人々の才能や力を大切にするブランドです。

「『和乃果』って素敵なお菓子だよね。」そう言われたい。

 贈答品として、お土産として、ちょっとしたおやつとして、人に喜んでもらえるよう、まずは地元の人に愛されるブランドをめざしています。地元で愛されたものを、次は東京で味わってもらいたい。さらには、その喜びを世界の都市に広げていきたい。「和乃果」の名前が示すように、日本のブランドとして世界で勝負したい。そのためにも、地元で愛される事がいちばん大事だと思っています。「日本人が好きなブランド」になることができれば、世界に出て行く事はそうは難しくないと思っています。

 まずは、山梨市の牧丘町に本店をオープンします。オンラインショップもスタートします。その後は、東京にも店舗を構え、その次は世界に進出して行きたいと思っています。この目標を踏まえて、たとえばパッケージなども和のテイストを活かした美しいものにしたいと思っていました。そんな折り、偶然目にしたのが山梨を拠点に活躍されているろうけつ染めのアーティスト古屋絵菜さんの作品でした。私がイメージしていたブランドの世界観と見事に一致、迷わずオファーをさせていただきました。

 牧丘の本店も、遠くから来ていただく価値のあるお店づくりをしています。仙台から移築した築二百年以上は経つ武家屋敷がお店です。一棟では日本最大級と言われているその屋敷の一角を店舗にして、設計はミシュランの2つ星レストラン「フロリレージ」を手がけられた甲斐晋介さんに依頼しました。私がお願いしたのは「居心地のいいお店にしてください」と、それだけ。甲斐さんは「農」をコンセプトに、裏庭と土を大胆に活かした内装を提案されました。まわりの風景も、葡萄の丘といわれる牧丘の四季を存分に満喫していただける里山の風景です。その場で「和乃果」を味わっていただけるスペースも設けています。山梨県の新たな息吹を、ぜひここで感じてください。

HACK JAPAN ホールディングス 株式会社 保坂 東吾

山梨県南アルプス市出身。上智大経済学部経済学科卒大学卒業後、東京の警備会社を経てIT系のベンチャー企業に入社。その後24歳で祖父が経営する日本連合警備に移り、警備員、営業職の経験を積んだ後、ウエディング事業などの業績回復を担う。2013年、「HACK JAPANホールディングス」を設立し、代表取締役に就任。2021年4月和乃果創業。

撮影:砺波周平 文章:梶浦道成 撮影場所:和乃果 牧丘本店